わたしが書店に行ったころ
カズオ・イシグロ氏のノーベル文学賞受賞を受けて、そういえば中国語で読んだことがなかったなと思いOPACで調べると、構内の大学附属図書館に蔵書があることが分かった。
慌てて身支度を整え、宿舎から徒歩3分の図書館で借りてきた。
余談だが、借りる際「予約が入って入るから借りられない」と言われたのだが、「予約は貸出中の書籍限定で、開架にある本は早い者勝ちでしょうが!」と言って借りてきた。( ̄д ̄)
イシグロ氏の氏名も当然漢字表記。中国語タイトル《别让我走》は、
别→Never
让→Let
我→Me
走→Go
で、英語原題の語感そのまま。日本語タイトルの「わたしを離さないで」よりもずっとしっくりくる。
中国語と英語は構造も似ていて親和性も高いし、内容も日本語よりしっくりくるかも…。期待!
秋の夜長に、少しずつ読んでいきたい。
そして、書店ではどんな扱いなのかなと気になったので、今度は徒歩15分の地域最大規模の書店へ。
中国の最大手書店といえば博库(Bo Ku)で、以前は新華書店という名称であった。
縦横にドーンと大きいビルを目の前に、入り口にノーベル文学賞特設コーナーがあったりするのかな…?と思いつつ足を踏み入れるも…あれ??
特に何もない。
じゃあ、外国文学のコーナーに特設されてたりする?
とエスカレーターで上るも、何にもない。
そんなはずないとぐるぐる回ってみたのだが、本当に、何もなかった。
というか、イシグロ作品自体、見つけられなかった。
一体、どうなってんの?!私の探し方がダメだったのかな…。
その代わり、日本の怪談、妖怪や化け物・陰陽師に関する作品は大人気で、こんな感じで平積みしてあった。
尚、相変わらず村上春樹氏の中国人気はスゴイ!この棚、上から下まで全部村上作品。
村上氏は、政治的発言が多くなってから一気に中国で人気が高まったな、というのが私の個人的な印象。
村上氏以外にも渡辺淳一氏の人気も高く、上記写真にも少し写っているけど、村上氏と同じくらい多数の取り扱いがあった。
村上氏と渡辺氏の共通点って、作品中に性愛描写が多くみられることのように思うけれど…。
中国ってポルノ産業が厳しく制限されているが、文学作品中の性愛描写については、表現や語感をマイルドにすることで、一部の例外を除き出版を許可されている。*1
その性愛描写目当てで村上・渡辺作品を読んでいる人もいたりするのかしら…?
他にも、東野圭吾氏の作品も人気が高い。
これは、今は禁止されてしまった日本のテレビドラマや映画の影響が大きいと思う。
ドラマ・映画化された東野氏の「白夜行」や「新参者」シリーズは、こちらでもいまだに根強いファンがいる。
意外だったのは、三島由紀夫作品も数多く翻訳されており、それなりに人気があること。
昔の話だが、中国人同僚に「三島由紀夫の小説が大好きだ」と何気なく語ったところ、キッと目を吊り上げてその場で非難された挙句、
後日、「あんな稚拙な文章のどこが面白いのだ」と、メールでもグチグチ粘着され難儀したことがある。(三島文学を“稚拙”って言っちゃうのもスゴイよね…。)
一昔前まで、中国での三島由紀夫の評価は「唾棄すべきファシスト」であり、彼の文学の素晴らしさは認められていなかったし、読んでみようとする人すらほとんどいなかった。
時代が変わったのかなぁ、と感じた。
その他、日本で有名だったり話題になった作品は時代に関わらずほぼ全て中国語に翻訳されており、こちらでも発行されている。
多分、皆さんの想像をはるかに超えて、日本文学は中国で広く受け入れられている。
でも、逆ってないよね…。
日本で読まれている中国文学は、せいぜいが近代まで。現代文学はほとんどない。
やはり日本の文化は、アジア最高峰と言っていいのだろう。
日本文学以外では、人工知能(AI)が中国でもやはり関心事項であるようだ。
関連書籍が特設コーナーで多数紹介してあった。
あとは、インテリアや内装に関する本も、大きなコーナーで紹介されていた。
中国では、マンションやアパートを購入すると、内装は自分でアレンジする。
地価の高騰も頭打ちとなり、以前より手が出やすくなった今、念願のマイホームを手に入れた人々がこういう本を参考にしているのかな、と思った。
書店でのノーベル文学賞の取り扱いが全くのゼロで、ガックリと肩を落として寮に帰ったのだが、ふとネットを見ると…。
あった、あった!!さすが、アマゾン!!
ちゃんとカズオ・イシグロ特設ページがあり、ようやく私の溜飲が下がった。
ところで…、ここだけの話、イシグロ氏の外見も話す英語のアクセントもとっても好みなんだけど、同意して下さる方、きっと少なくないと思う…。( *´艸`)
*1:朧げな記憶が確かならば、村上春樹氏の「1Q84」の十代少女と成人男性との性行為描写については、少なくとも第一版では翻訳自体されていない。