みみずくDiary in China (だった)

中国留学からニッポンに帰国したみみずくによる普段着の徒然日記

「バベル」

映画「バベル」といえば、言わずと知れたブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット主演の名作である。

バベル スタンダードエディション [DVD]

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日本人女優の菊地凛子さんが衝撃的なハリウッドデビュー&オスカーノミネートを飾ったことでも有名なこの作品、ご覧になった方もさぞかし多いと思う。

かくいう私は、この作品を中国語字幕で見たくちだ。

この映画が上映された頃ちょうど中国におり、話題に乗って見てみたのだ。

 

神の不興を買って人間がバラバラの言語を話すようになったという、バベルの塔建設の故事より、この映画のテーマとなっているのは「異言語による不安」である。

言葉が通じないことによる不安や焦燥感、絶望、苛立ちを表現する手腕は特筆すべきものがあり、海外で道に迷った経験のある方などには、共感できる部分も多いと思う。

 

とまあ、映画の話はこれくらいにとどめるが、最近似たような経験をした、というか、目にした。

 

同じ寮に住む英国人が、近く帰国するらしく退寮手続きをしなければならないらしいのだが、寮母さんたちは、誰ひとり英語を話せない。

また、その学生も、中国に留学しておりながら、中国語が冗談抜きで「你好」と「谢谢」くらいしか話せない。

 

というのも、中国は現在、国策で「中国学」修士養成プログラムを推進しており、特に、非アジア圏かつ非華僑学生の受け入れに尽力している。

(つまりは、欧米系留学生を大量に受け入れている。)

その目的は恐らく、中国シンパ育成のためだと思うが、アジア人留学生の私から見れば、それはかなり旨味のあるプログラムなのだ。

 

なんてったって、条件が甘い。甘すぎる。

 

中国語能力も全く必要とされておらず英語で単位及び学位が取得可能な上、基本的に学費や寮費は全額中国政府負担、おまけに毎月奨学金までもらえる

しかも、1年間中国で授業を受けるだけで、2年間単位を履修したものとみなされる。

つまり、2年間の修士課程を1年で修了することができるのだ。

このプログラム、英語圏の学生から何と言われているかというと、

“One Year Paid Holiday” (1年の有給休暇

である。

 

欧米人はなんと優遇されていることか…。

 

で、その「中国学」修士を取得したであろう英国人が、寮母さん二人と話している場面に遭遇したのだが、

 

英:......Yeah, I'll leave for HongKong.

寮母:对,航班(hangban:フライトのこと)!

英:???HongKong!

寮母:对,航班!!

 

と、全くもってかみ合っていなかった。

英国人学生の頭上には、ハッキリと見えるんじゃね?というくらい、「???」が並んでいたし、寮母さんは英国人学生が中国語が全くできないとは知らないらしく、ずっとかみ合わないやり取りを続けていた。

 

あらま…と思いつつも、一度は通り過ぎて自分の用事を済ませに行ったのだが、帰ってきてもまだ、かみ合わないやり取りをしていたので、見かねて助け舟を出した。

寮母さんの伝えたいことを、英国人学生になんとか橋渡しはできたのだが…。

寮母さんに後日談を聞いたら、あの英国人学生、約束の時間には来ないし、あれもこれもなくした、と散々だったらしく、延々愚痴を聞かされた。

おやまぁ…。

 

でも、相手の言っていることがわからない状況というのは、本当に不安になる。彼のお手伝いができて、良かったと思う。

 

それにしても、中国語すら一切話せない「中国学」修士を量産して、学生にメリットはあるのかなぁ?

中国にはあると思うよ。

学費など全額負担でお小遣いまであげても、その金額はナイトライフを重視し、夜な夜なバーに繰り出す欧米人が手出しせずに暮らせるほどではないと思うし、少なくとも1年間はその学生たちは中国国内で消費活動をするだろう。

しかも、その学生たちの家族や友人の訪中なども考慮に入れると、やはり多少なりとも外貨は獲得できると思う。

 

しかし、学生はどうだろう。

就職の際なども、

「中国に留学して、「中国学」修士を取得しました。でも、中国語は話せません!」

だったら、何の武器にもならないと思うんだよね。

英語でちょっと中国のことを学んだ気になっているかもしれないけど、学生の大半は、1年間目一杯遊んで帰る。

しかも、大学生というこちらではエリートであっても、英語をほとんど理解しない中国人学生と交流する機会もほぼ皆無だから、実のところ、中国のことなんて、何ひとつ理解できていないのだ。

 

お金バラまいてシンパ育成しても、肝心の中国の魅力は、全く伝わっていないし、ほとんどの学生が「やっと脱出できる~~!!」って、刑期明けした流刑者みたいに帰国していくのを見ていると、私ってどういう罪状でここに流刑されているのかな、って、ちょっと不安になる日々なのであります。